森が荒廃すると文化も荒廃

安田喜憲氏の著書「森と文明の物語」によると、花粉分析の結果から、紀元前5千年前頃のレバノンやエジプト、ギリシャには森林地帯が広がっていたことが分かったといいます。

しかし、今ではその豊かな森はなくなってしまいました。それは、木が切り尽くされ回復不可能になってしまったからです。当時、樹木は身分の高い人たちの神殿などの建設に用いられたり、生活や戦争の兵器を作るための薪炭として利用されました。また、食文化の中心が食肉であったため、家畜が山を食い荒らしてしまったことも森がなくなった大きな原因に挙げられるといいます。ひとつの森を破壊したあとは、別の森や土地を求め、それが戦争のきっかけにもなっていきました。どんどん森がなくなっていった結果、土壌は荒廃し生態系が破壊され文明の危機が招かれたのです。

一方、日本は森林を切りつくす文化ではありませんでした。幸いなことに、日本の文化は、八百万の神々を自然の中にすえ、樹木には神が宿り、山そのものを神とする概念と信仰から森や木は勝手に伐採できるものではありませんでした。また、緑のダムの役割など生活に密着した大事な存在として森を見ていました。さらに、米を中心とした食文化は、家畜などが木の芽を食い荒らすようなマイナス的要素はなく、森の恵みである季節の産物を大切にして食文化に彩を加えてきました。

日本人は森によって生かされ、そのことを自覚してきた民族でした。しかし、この30年間の日本人の意識は、まったく別の方向に向かってきました。科学技術で自然をコントロールしようとしてきた結果、川と海のつながりが分断され、森や海の生態系は荒廃しています。今こそ、日本のの森の姿を再認識するときが来ています。