渡邊智恵子講演録

2016.1.26 原宿ベニーレベニーレにて

私は1月28日が誕生日で64歳になります。
今年の仕事始めのときに社員みんなが将来の夢を発表するんですが、私は65歳には社長業を卒業することを宣言しまして、晴れてやりたいことをやらせていただくと発表しました。
株式会社アヴァンティという会社は1985年に設立いたしました。
この会社はどちらかというと動機不純で作った会社です。
タスコジャパンというアメリカの光学製品の会社のバイイングエージェントに23歳の時に入って、10年目にこの会社を作っていただいた。
それは入社時に35歳の時には5つの会社の役員になると豪語しており、社長がそろそろ一つ会社を作って渡した方がいいんじゃないかということで、私のためにこの会社を作ってくれました。
その会社でオーガニックコットンという製品に出会い、この仕事に27年没頭しています。

我々が毎日来ているコットン(ワイシャツ、パンツ、シーツ、寝間着など)の裏側を知ることができました。
自然素材の綿が地球環境に大変なダメージを与えていることがわかったんです。
世界の耕作面積の約2.5%に綿が植えられているんですが、そこに使う化学薬剤(化学肥料とか除草剤、殺虫剤、はたまた枯葉剤というものも使われておりまして、世界で生産される薬剤の16%が綿の畑で使われているという、農薬の集約型農産物が実は綿であるということがわかりました。
環境へのダメージと農家の人たちに対する健康被害が大変なものなんだということを知って、それでこのオーガニックコットンというビジネスに使命感を覚えました。

1990年からこの仕事に入ったんですが、1993年にテキサスから綿を輸入し、日本で紡績し、生地を作り、製品を作るというメイドインジャパンにこだわった製品作りに入りました。
メイドインジャパンの繊維製品は市場の中で5%で、残り95%の8割は中国です。日本でモノを作るということはなくなってきています。
紡績会社でちゃんと糸をひいているというのは非常に少なくなりました。
日本の紡績会社が中国やインドネシアで作るということをやっていますし、織物にしているハタ屋さんもなくなってしまっています。
私はメイドインジャパンにこだわって、糸づくりから最終製品まで日本でやっていますが、日本の小さい会社195社との付き合いがあります。
北海道から鹿児島まで作ってもらっている。
うちの会社では仕事にかかわる人々が利益を分かち合う四方良しというのが行動指針になっています。
近江商人が唱えた売り手良し、買い手良し、回り良しの三方良しを実践し、100年以上続いている長寿の会社が日本では2万6千社と世界一です。
ドイツは2000社だそうです。
世間の支持を得ないと会社は続いていかないという考えに基づいている。
この三方良しの考え方に、作り手を入れて四方良しとした。
うちの会社は195社に指示しているだけで、モノを一切作っていない。
作り手がいない限り、社員58人の食い扶持が無い、そういう会社です。

オーガニックコットンは環境にダメージを与えないということも、もちろん一つですが、遺伝子組み換えの種を使うと、次の年にほとんど芽が出ない。
農家の人は毎年、モンサンという会社から種を買うんです。それに見合った化学肥料、除草剤を買う。実は農家の人達は借金漬けになっていく。
収穫が見合っていればいいのですが、しかし返済ができない。
インドが世界一の生産国ですが、綿の農家で年間3万人が自殺しています。
それは農薬でがんになってしまうということもありますが、一番大きい自殺の原因は借金なんです。
これがインドにおける大きな社会問題になっています。
学びに行く時間がなく、労働者として働かせる5歳から14歳の児童労働者が40万人、綿の収穫にかかわっている。
これが私たちが毎日使っている綿の生産の現状なんです。
ファストファッションで1枚何百円で売られているコットン製品がこういった現状から生まれているということが、おかしいのではないかということに気づき、行動するということがとても大事なのかと思います。

今、ザ・トゥルー・コストという映画(渋谷のUPLINKなどで放映)、原価の真実という意味合いだと思います。
アメリカ映画ですが、ぜひご覧になっていただきたいんです。
製品の裏側でどんな社会問題が横たわっているか、ちゃんと表現されていると思います。
真実をちゃんと知り、そこから私たちがどういったことをすべきなのかを考えて行動していきたいと思う。
オーガニックコットンを通して、人が多くの犠牲を強いて、ビジネスが成り立つということをやめていかなければならないんじゃないか、そういったことをこの27年間ビジネスとして、細々とやってきたつもりであります。

2010年12月にNHKのプロフェッショナル仕事の流儀という番組で取り上げていただいたんです。
ディレクターが世の中にたくさんいいことをやっている人たちが多いのに、なんで私を取り上げてくれたのって聞いたんです。
そのときに彼が先物投資ですと言われたんです。
渡邊さんは今までのことはあるけれど、これでは収まらないと思います。
もっと大きな社会貢献をしてくれるのではないかという思いを込めて、この番組を作ったと思っていますと言われました。
2011年3月11日の震災以降、私のエネルギーとなり、私の肩を押してくれた言葉の一つなんです。
私のタイトルは社会企業家でありました。
社会問題をビジネスによって解決する人という意味だそうです。
ディレクターは渡邊は決して経営者ではないと思い、社会企業家というタイトルをつけてくれました。
しかし、当時は自分自身に身についていなかったと思います。
自分のこれからの20年間、東北の人たちと向き合っていくと思わせてくれたんです。

そこでプロジェクトを3つ立ち上げました。
2011年に立ち上げた「東北グランマの仕事づくり」が一つです。
東北の被災した女性たちに仕事を作るということです。
うちの会社は義捐金を集めても、しれています。
一夜にして仕事を無くした女性たちに仕事を作るということを始めました。
2011年にはクリスマスオーナメント25000個を作って、約50人のおばちゃんたちに800万円の工賃を払った。
それからずっと年間5000万円くらいのビジネスをやっています。
およそ100名のグランマに手内職を継続してやってもらっています。
オーガニックコットンで編んだリストバンドとかスヌード(帽子)をソチオリンピック・パラリンピックの選手の皆さんに東北グランマの仕事としてプレゼントさせていただきました。

2012年には「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」を立ち上げました。
日本は繊維の自給率が0%であります。
絹も羊毛も麻もほとんどありませんし、化学繊維の原料となる石油もない。
原料は日本でほとんど生産されていないという事実があります。
福島は原発の風評被害があり、お米を植えても、野菜を植えても買ってもらえないので、そこに綿を植えていただきました。
全部うちが買い取りますということで。
キロ1000円で買い取っています。
それを原料にしてこういう製品を作りました。
製品まで作っていくことが大切だと思っています。
アメリカから買っている綿の5倍くらいします。
今そちらに回しているのは全体の5%しか使っていないんです。
上代を高くして売らなければならないというものではなくて、だいたい他と同じ値段で売るため、5%で商品づくりをしています。
風評被害で農業をやめる人たちが増え、耕作放棄地が非常に増えているところを、何とか綿で補っていきたい。たかだかしれているのですが、うちがやれることの一つということで、やっております。
手ぬぐいは信濃町の博文栄光堂でたくさん売らせていただいています。

あとは「わくわく・のびのび・こども塾」ということで、小諸にエコビレッジを持っておりまして、福島の子供たちの雇用として、野外で生きる原点の衣食住を学んでもらう。
2013年5月5日にここに藁の家を建てました。今年は、作ってくれた子供たちをもう一度呼んで、その修復をしていこうかと考えております。

オーガニックコットンから始めて、震災を経て、生き方のバリエーションが太くなってきたのではと考えているのですが、今年大きな事業を立ち上げることになりました。
その一つは「22世紀に残すもの」というラジオ番組です。
1月10日からスタートしました。
第1回は芳村春風先生(感性の哲学者)がゲスト、日曜の15時30分から16時まで、2週にわたって一人のゲストという形でやっています。
ユーチューブでも見ることができます。
渡邊智恵子のオフィシャルサイトにリンクを貼っています。
放送日の翌々日あたりから見られます。
次はモスバーガーの櫻田社長、その次が加藤登紀子さん、ワタミの渡邊美樹さん、大地を守る会の藤田和芳さんとか、落合恵子さんとかにご登壇願って、日本民族はどういう民族だと思いますかとか、その民族が近年どんなふうに変わったのかとか、その原因は何なのか、22世紀を担う若者へのメッセージというような8項目の質問を投げかけていきます。
ラジオとか映像、そして最後には活字に残していきたいと思っています。
どこかの雑誌で連載してくれるといいなと思っています。
1年間ためて書籍になったらもっと素敵かなと思っているんですが、アヴァンティがスポンサーになって、私の出演料も全くありません。
コミュニティFM295局、その地方の局に月1万円で売ることにしており、地域で22世紀に残すものについて一緒に考えていきたいと思っています。

そしてもう一つは、森の駅発市民フォーラムとかかわりがあると思いますが、森を守る人の育成を目的に「一般財団法人森から海へ」を立ち上げます。
渡邊智恵子100%寄付による財団です。
寄付金はたかだかしれていますが、この財団はちゃんと商売をやります。
鹿肉のペットフードを作ります。
鹿が日本の森を今食べつくしています。
大変です。
芽はないし、落ち葉を食べつくして、森の中は表土しか残っていません。
そこに雨が降って来たらどうなるんでしょうか。
鉄砲水が流れ、表土は流され、地下水はたまらない。
川は氾濫し、保水されていない川になり、だんだん水がなくなって、海にそそぐ養分はなくなってしまうという。
この現実が横たわっているんです。

それの大きな原因になっているのが鹿であろうと思っています。
本来捕獲されるべきシカの10%ぐらいしか捕獲されていません。
その中の90%が捨てられています。
放置されています。
土に埋めると言っていますが、これは無いだろうと思っています。
90%の命が活用されてなく、無駄に捨てられているというこの現実は、絶対私たちは何かしなければならないと思いませんか。
人が食べる鹿肉はクォリティが必要なんですね。
一発で仕留めないと、フラストレーションが充満して血が回るんですね。
血が回ると血なまぐさい肉になるので、人間は食べられないんですよ。なので、クォリティのいいものは難しい。
クォリティが関係ないのがペットフードなんです。
どちらかというと血なまぐさいものの方が動物は好みますので、それを十二分に活用してペットフードを作る、ブランド名は「シカの恵み」です。
一般食とジャーキーのようなものの3、4種作って、年間8000万円くらいの売り上げを予想しています。
出てきた利益は森を守る人の育成に使う。
森を横軸に通して全体の森を見るという人が少ないじゃないかと思います。
動植物のこと、自然のこと、気候のことを含め、森をどんなふうにして守っていけばいいのかを。
森の再生は大変かもしれないが、気が付いた人はやらなければなりません。
なぜ私たちは気がつくのか。
それは神様が気づかせてくれるわけですね。
鹿肉ペットフードを拡販していきたいと思うんですね。

今、日本のペットフード業界は非常に荒れています。
食い物にしています。
今ペットの皮膚疾患は非常に多い。
ホームセンターで売っているようなものは安いものは、中身を開示しなくていいので、質が悪くアトピーが非常に多い。
がんになっているペットも非常に多い。
もっと安全なペットフードを私たちは鹿肉を通して作っていきたい。
トレーサビリティをしっかりして、どこで捕れたのかを明確にしていく。
そこで使う大麦とかハト麦とか野菜はどういうところで作られたのか、私はオーガニックでやっていきたいと思うんですが、人が食べても同じくらいに食べられるようなペットフードを作って、ペットの環境を守っていきたい。
そこで必ず利益を出したいと思っています。
その利益をしっかりと愛あるお金に変えていきたいと思っていますので、みなさん一人ひとりの愛ある実践を心よりお待ち申し上げています。

面白いモデルケースをご披露します。
実は本社を東京から長野の小諸に移します。
朽ちるオフィスを建てます。
ストロベールハウス。
藁を俵にして、それを積んで、緩衝材にはオーガニックコットンの裁断くずを使用し、土壁を塗っていきます。
できるだけオフグリッドにします。
電気を買うことをできるだけやめて、自分たちで電気を作り、温水器も付けて、オフィスの真ん中にキッチンと食堂を作ります。
もう一つは暖炉を持ってきて、おがくずのバイオトイレも使います。
負の財産を残さないように、朽ちるオフィスを作ります。
今年中に完成し、来年の3月には本社を東京から移します。
そのときにはツアーを組んで、おいでください。

オーガニックコットンについての話をします。
皆さんが今着ているものがどのくらいの薬剤とどのくらいの水の洗いをかけて製品になっているかということなんですが、洗いは6回ぐらいやるんです。綿というのは脂分がたくさんあるんです。
コットンボールというのは種から繊維が放射状になるんですね。
種を風雪から守るためなんです。
種って未熟のうちにふやけてしまうと困るので、繊維は種のためのベッドの役割をしている。
だからたくさんの油分を含んでいるんです。
その油分をまず取らないといけないんです。
タオルは脱脂をしないと水をはじいてしまう。
それに漂白をします。
染めるためにまず真っ白にすることが必要なんです。
染料を入れます。
そこに色留めの定着剤をつけます。
それだけだったら固いので柔軟剤をかけます。
綿は縮むので防縮剤というのをかける。
7項目ぐらいのところで薬剤を使っていく。
その都度、水で洗っていくんです。
今、地球上で淡水というのは大変重要な資源なんです。
でも私たちが着るものでたくさんの水を使っていく。
いいと思いますか。
できるだけやめたいと思う。

でもファッションの世界で生成りだけでは成り立たない。
色が無くて、ファッションって言えますかと昔さんざん言われてました。
私は生地を売ったり、糸を売ったりしていて、色もつけずに、よくファッションの世界に入ってきたわねと笑われていたんですよ。
でも環境に一番ダメージを与えないのは生成りのままを維持することなんですね。
綿はそれだけ薬剤と水を使っていくと、傷むんですよ。
漂白剤に一日中つけていたら、ボロボロになるの、女性なら知っていますよね。
綿は薬剤につける都度、傷んでいく。
それをやめると、綿は綿本来のあたたかさとか柔らかさとかふくよかさをキープできる。

農産物の中において、オーガニックコットンの場合には化学肥料とかで無理やりに成長していないので、自然の力を持っています。
生まれ持った力が違うらしいんですよ。
染めなければ、耐久性は強い。
薬剤で傷んでないからなんですね。
生成りのものは通常のものの2倍くらいの耐久性があるかと思う。
繊維1本1本に穴が開いていて保温力になるのですが、そこに染料とか薬剤が入るとその穴がつぶれていく。
見分けるには着ていただかないとわからない。
見た目で判断できることは案外に無くて、使ってみて、洗ってみて、また着てみてなかなかこの違いは言えない。

うちはリピーターさんが6割以上いる。
Tシャツ1枚、ユニクロで買ったら980円、無印良品で1500円、しまむらで580円といったように値段に違いがある。
うちのTシャツは4900円くらいする。
私もよく4900円で買ってくれると思う。
Tシャツの機能だけを考えたら買えますか。
うちは下着とか寝間着がすごく多いんです。
うちの商品はファッションで外に着飾っていくものを作っているわけではない。
家の中で着るものにそんなにお金を、えーと思っているんですよ。
うちは前年比100何パーセントというのをずーと確保しております。
オーガニックコットンを26年やっていますが、一度赤字を出したくらいで、本当に少しずつなんですけど、リピーターさんによって、守られているかなと思っているのは、製品に対する良し悪しというよりも、ものに対するバックグラウンドとか、考え方とか、違うストーリーがあって、支持されるものかなと感じています。